あしたの知財

メーカーの知財勤務を経て特許事務所を経営しています。知財の活用や訴訟を主な業務としている弁理士・ニューヨーク州弁護士です。新しい切り口の知財情報発信を目指します。

倫理的なNPE?

なんだかんだと言ってアメリカは知財ビジネスの実験場のようなところです。

今回は、新たに立ち上がった"Ethical NPE (TM)"をご紹介します。

もともと、NPEというのはNon-Practicing Entityの略で、自分自身では事業を行わずに、主に購入等して手に入れた特許を権利行使する団体を意味しています。昔はパテント・トロールなどという呼び名が一般的でしたが、いつからかNPEなどと呼ぶようになりました。

2017年にCalifornia州のPasadinaで設立された iPEL, Inc. は、自らEthical NPEと称しています。"ethical"というのは「倫理的な」という意味なので、意訳すれば「倫理的なパテント・トロール」ということになりますね。既に、"home and business electronic devices", "networking technologies", "degital rights management technology" などを中心に1,000件以上の特許を取得している模様です。

何が倫理的(ethical)なのかというと、彼らのホームページを斜め読みしたところ、まずは有効的に話し合います、というのと、スタートアップなどのsmall businessに対しては所定期間無料でライセンスする、大企業に対しても"paid-up" (一括金でランニング・ロイヤリティー無し) という枠組を容易しているということのようです。

2013年に成立した米国の特許法改正(いわゆるAIA)以降、NPEの活動は大幅に制約を受けることになりまして、実際のところ米国の訴訟件数もだいぶ減っています。2013年に6,000件以上あった米国の特許侵害訴訟は、2017年には4,000件台に落ちこんでいます。”2018 Patent Litigation Study"

このような、少なくとも米国では、NPE受難の時代となっている現在ですが、まだまだ新しい試みをする人々が出てくるのが米国の魅力の一つと思います。また、近似ではドイツを中心とした欧州や中国での権利行使を念頭においているNPEも多数出現してます。iPELの中国での権利行使に注力しているというニュースもあります。

さて、最後にiPELの創業メンバーですが、CEOは弁護士のBrian Yates氏でChristie, Parker & Hale, LLP、McKool Smith LLPなどの弁護士事務所を経たあと、Prognosis IP, LLCというNPEでキャリアを積んだようです。また、PresidentのRasheed McWilliams氏も弁護士でCotman IP Law Groupで訴訟部隊のヘッドをしていた人物のようです。

 

余談:中国での特許侵害訴訟は件数こそ多いものの、損害賠償額はまだまだ低い印象です。これが上がっていくような状況になると中国でのNPEの活動もだいぶ活発になる気がします。

余談:私も何度か訪問したことがありますが、iPELの本拠があるカルファルニア州のパサディナはとても良いところですね。ロサンジェルスダウンタウンからは車で1時間程度離れているでしょうか。治安もよく、比較的のんびりとした高級な住宅地といったところでしょうか。仕事で訪れるても楽しいことはあまりありませんが…。